東京地方裁判所 昭和44年(ワ)12988号 判決
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〔判決理由〕原告が本件事故当時園芸業を営んでいたことは当事者間に争がなく、<証拠>を総合すると、原告は本件事故当時自己の農園において別紙植木一覧表(1)、(2)記載の植木鉢による鑑賞用植物(以下「本件(1)、(2)植物」という。)を主に温室により栽培していたが、本件事故に遭遇して、昭和四四年四月三〇日から同年五月二四日まで日曜、祭日を除いて殆んど毎日通院治療をうけるとともに自宅で就寝して療養しなければならない身体状況にあつたのであり、その後も一〇月初旬まで吐き気などがするので、寝たり起きたりして、時々通院するという生活を余儀なくされた結果、本件(1)、(2)植物につき、その生育に重要な時期に水かけ、防虫、温室の温度調節等の手入れをすることができず、またその中出荷時期が到来した植物についても自ら出荷することができなかつたため、結局本件(1)植物はすべて枯死などにより商品価値を失い、また、本件(2)植物も、その中桜草の一部を売却でできたほかは殆んど育成管理不充分のため売ることができなかつたこと、本件(1)、(2)植物は、当時それぞれ別紙植木一覧表掲記の各価格を下らない卸売価格を有していたこと、本件(1)、(2)植物のような植木の栽培には、原告方のように機械化されていない農園では特殊な技術と経験とが必要であるため、短期間素人に水かけを依頼する位はできるにしても、長期間にわたり素人にその生育をすべて委せて商品価値のある植物を育て上げることはできないものであるところ、原告方には原告以外に園芸の専門家はおらず、また臨時的に温室栽培専門の人を雇い入れようにもそのような人は見当らない状況にあつたこと、さらに出荷も市場選択や陳列方法等に経験や知識が必要なので、他人に委せることが困難だつたことが認められ、右認定に沿わない被告本人尋問の一部は前掲各証拠に対比して採用できず、他に右認定を覆すに足りる証拠はない。
ところで、原告は、本件(1)、(2)植物をすべて売却できる商品にまで育て上げ、しかも、それらを一つ残らず売り尽くすことを前提にした損害額の主張をしている。なるほど<証拠>中には右の趣旨にかなうものもあるが、被告本人尋問の結果によると、原告の農園には事故当時すでに売却時期を失した植木も若干混つていたことが窺われ、経験則および弁論の全趣旨に照らして、原告が確実に本件(1)、(2)植物を全部成育して、すべて原告主張の価格で売却しえたであろうことを予測するのはきわめて困難である。また原告が本件(2)植物のうち桜草の一部を売却でき、その分の損害が発生しなかつたことは前記のとおりである。そして、<証拠>によると、原告のこの種の植木栽培に要する経費(もつとも、その一部はすでに支出済みであるが)は、卸売価格の約三割ないし四割であつたことが認められる。そこで、以上の諸事実に、同種業界における収益率、人件費率(金融財政事情研究会「業種別貸出審査事典」補巻四七五頁以下参照)および原告の父金子真一による昭和四三・四四年度の所得税確定申告額(弁論の全趣旨により真正に成立したものと認められる甲第一一号証の一、二、第一二号証の一、二によつて認められる。)を勘案し、かつ、売却しうる割合などについて原告の確実な立証がないので控え目な損害算定をすると、本件事故がなければ原告が本件、(1)(2)植物の裁培によつて得たであろう利益は、右植物の卸売価格総額から約六割を控除した残額四〇万円であると認めるのが相当であり、原告は本件事故により同額の損害を被つたことになる。
(加藤和夫)